2024/07/26 (更新日:2024/12/03)

野球肩(投球障害)について

スポーツ, 学生, 肩の症例, 腕の症例, 首・肩

野球肩(投球障害)について

 

投球動作に関連して発症する肩の障害の総称で、肩に繰り返し負担がかかることで発生します。

野球をしている方に多いので、別名「野球肩」と呼ばれています。

その他にも、テニスのサーブやバレーボールのスパイクなど頭上で腕を繰り返し振る動作を行う

オーバーヘッドスポーツで発生することもあります。

 

オーバーヘッド動作を伴うスポーツには、野球やテニス、バドミントン、

バレーボール、水泳、ハンドボール、やり投げ等があります。

これらの種目では、肩関節に繰り返し伸張性の負荷がかかります。

また、競技の継続により肩関節回旋角度・筋力特性が変化すると考えられています。

投球障害肩は投球側の肩関節(肩甲上腕関節)だけでなく肩甲胸郭関節や、

反対側の肩関節や股関節、肘関節、体幹、股関節、膝関節、足関節を含めた

全身の連鎖運動と投球フォームの観察が必要となります。

肩関節はあらゆる方向に自由自在に動かせる関節で、可動範囲は体の関節の中でも一番です。

それを支えようとたくさんの筋肉や靭帯が複雑に組み合わさった構造をしています。

使い過ぎやフォームの崩れから肩関節に負担がかかると、肩周辺のインナーマッスルである

腱板や、関節唇と呼ばれる軟骨に炎症や損傷をきたし、痛みをもたらします。

 

投球動作

 

 

コッキング期→加速期→フォロースルー期の3つに分かれています。

コッキング期:ボールを投げる構えから、肩関節を最大に広げている姿勢までを指します。

肩関節外転位・最大外旋位を強制されます。

加速期:肩を広げた姿勢からボールを手から離すまでの期間をいいます。

スピードが乗っているため腕が伸びる際に肩や肘への負担が強くかかります。

フォロースルー期:ボールが手から離れ、腕を振り下ろす動作で腕の重みにより引っ張られ、

そこで関節包や腱板、筋肉の付け根に負担がかかります。

 

この3つの相ではそれぞれ出現しやすい病変があります。

太字は発生しやすい傷病です。

コッキング相肩峰下インピンジメント肩峰下滑液包炎、腱板疎部損傷 

インターナルインピンジメント、腱板損傷、肩前方不安定性

SLAP損傷(上方関節唇損傷)上腕二頭筋長頭腱炎

加速相肩峰下インピンジメント、インターナルインピンジメント

フォロースルー相SLAP損傷、腱板炎、ベネット障害

上腕二頭筋長頭腱炎、肩関節後方腱板損傷

 

原因

 

肩の酷使:野球などの肩を主に使うスポーツで投げすぎたり、使いすぎによって、

肩への負担が蓄積して発生します。

フォーム:不適切なフォームにより、肩に余計な力や負荷がかかり靭帯や腱板を

損傷します。

筋力不足:肩の筋力が不足していると、負荷に耐え切れず痛める原因となります。

 

実は肩は複合関節!?

 

肩を構成する骨は「上腕骨、肩甲骨、鎖骨、胸骨、肋骨」の5つです。

肩甲骨の肩峰と烏口突起は烏口肩峰靱帯で結ばれ、烏口肩峰アーチを形成します。

上腕骨の先端にある骨頭が肩甲骨の外側にある関節窩にはまり込む構造になっている

肩甲上腕関節と肩峰下関節(第2肩関節)の2つの関節を肩関節と認識していると思います。

その他にも、肩の動きを見るのに重要な関節は、肩甲胸郭関節での肩甲上腕リズム、

肩鎖関節胸鎖関節、他に肋椎関節も肩の動きに影響します。

肋椎関節の可動性が減少すると、胸郭や体幹の運動が制限され呼吸が浅くなり、

肩関節の運動が制限されることがあります。

H30.12.12「肩関節の基本と代表的疾患」について 勉強しました ...

 

種類

 

1.インピンジメント症候群:肩を使うたびに肩峰や靭帯に上腕骨頭が衝突すること

によって炎症が起こり、痛みを生じます。

最大外旋位から内旋に向かうときに棘上筋が肩峰の下で摩擦を受けやすい構造になっています。

テスト法 

 

ニア法:一方の手で肩甲骨を保持し、もう一方の手で上肢を内旋・挙上させ、上腕長軸方向に

圧迫を加えます。この際に肩峰下に痛みがでてきたら陽性です。

ホーキンス法:肩90°前方挙上位,肘90°屈曲位で肩を内旋させ,上腕長軸方向に圧迫を

加えます。この際に肩峰下に痛みがでてきたら陽性です。

 

 

2.腱板損傷:腱板とは棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋(ローテーターカフ)という4つの

筋肉のことを指します。

 

ローテーターカフは、肩関節が動くときの安定化機構として、関節窩に上腕骨頭を押し付けて

関節を安定させる役割があります。

ローテーターカフが機能することで、スムーズな関節運動につながります。

 

 

この筋肉が損傷することで、腕をあげられなくなくなったり、夜間にも痛みがでてきます。

肩を外側に上げていき、60~120°の角度の時に痛みがでる(ペインフルアークテスト 陽性)

のが特徴です。

※ 夜間痛(夜中に痛みで目が覚めてしまう)がでたら、腱板断裂の可能性もあるので、

早急にご予約ください。

 

3.腱板断裂:棘上筋は解剖学的に損傷を受けやすく、1回の外力で発生するものと

加齢などによる変性に加え、腱板脆弱部に繰り返しの張力がかかり、変性が進行し断裂に

至るものがあります。

断裂部位は大結節から約1.5cm近位部に多く、この部位は血行が乏しいです。

肩関節外転60~120°の間に痛み(ペインフルアークサイン)を生じることが多い。

また、90°屈曲位で上腕を内外旋することにより痛みがでる場合もあります。

肩関節外転90°まで他動的に上げていき、その位置でキープをしてもらい、キープできず腕が下に

下がってしまう場合(ドロップアームサイン)は陽性です。

 

 

4.リトルリーガーズショルダー:成長期の野球をやっている

子ども(好発年齢は10歳~15歳)に多く、見られます。

繰り返しの投球動作による上腕骨近位骨端線離開(疲労骨折)です。

野球の投球以外にも、バドミントンやバレーボールなどオーバーヘッドスポーツをされている

少年少女に生じます。

投球動作でボールが手から離れたあとの腕を振り下ろす動作(フォロースルー)時に、

腕の遠心力により上腕骨頭が外側に引っ張られたります。

その結果、骨よりも弱い軟骨でできている骨端線部に負荷が少しずつ掛かりその積み重ねで、

痛みが続いてしまいます。

 

5.ルーズショルダー:外傷性や反復性といったものではなく、肩の靭帯や

関節包が緩いことによって起こる症状です。

 

6.肩甲上神経損傷:投球動作のときに引っ張られたり、圧迫されたりして

損傷を起こしたものです。

肩の痛みが後ろに放散し、肩の疲労感や筋の萎縮が見られます。

 

7.上腕二頭筋長頭腱炎:上腕骨にある大結節と小結節の間の結節間溝部に

上腕二頭筋が走行しており、この部分は摩耗されやすい構造となっております。

40歳以上の男性に多く、加齢的変化による腱の変性が生じやすくなります。

結節間溝部に圧痛があり、腕を捻る動作をしたときに痛みがでてきます。

スピードテスト:肘を伸ばし手のひらを上に向けた状態で、肩を前方に上げてもらい

そのときに下方向に抵抗をかけ、結節間溝部に痛みがでてきたら陽性です。

ヤーガソンテスト:肘を90°曲げて手のひらを下に向けた状態で、手を上に向けるように

してもらい逆方向に抵抗を加え、結節間溝部に痛みがでてきたら陽性です。

 

8.肩峰下滑液包炎:滑液包は肩峰の部分にあり肩関節の動きを滑らかにし、

肩を保護するインナーマッスルを保護するため筋肉の損傷や断裂を防いでくれるなどの

役割があります。

滑液包の炎症は急に起こるものではなく、オーバーユースや繰り返しの負担などがかかる

ことによって徐々に関節や滑液包に負荷がかかり炎症を起こすと痛みや動かしづらさが

出てきます。

ダウンバーンテスト:肩峰と大結節の間を押さえたまま肩を他動的に90°外転していきます。

その動きの中で痛みがでたら陽性です。

 

9.SLAP損傷(上方関節唇損傷):投球動作(外転・外旋)による繰り返しの

負荷による肩関節の上方の関節唇(上腕二頭筋長頭腱付着部)が剝離、断裂してしまう損傷です。

コッキング期からボールリリースまでの動作で引っかかり感や不安感、痛みがでてきます。

 

10.肩関節周囲炎(四十肩):肩関節の周りに炎症が起こり、スムーズに動き

にくくなる症状です。40代から50代にかけて多く見られ、次の3つに分類されます。

・急性期

四十肩、五十肩が発生した直後の時期を急性期と呼びます。

この時期は炎症が激しいので強い痛みを感じることが多いです。

何もしていないじっとしてる時も痛みを感じ、夜間にも痛みがでるのが特徴です。

・慢性期

急性期よりも痛みが落ち着いた状態のことを指します。

慢性期は、肩の可動域に制限が生じます。

・回復期

痛みが落ち着き、徐々に回復へと向かっている時期のことです。

肩や腕が動かしやすくなってきます。

 

 

 

予防

 

 

ストレッチ:投球前後には肩の可動域を広げるストレッチを行い、柔軟性を保ち疲労を

溜めないようにしましょう。

 

筋力トレーニング:肩の筋肉、特に腱板の筋肉を強化するトレーニングを行い、

安定性を向上させます。

 

投球フォームの改善:正しいフォームの身に付けることで、肩への不必要な負担を

減らします。

 

 

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